給与水準で採用に負けないために、中小企業ができること

人事戦略

「求人を出しても応募が集まらない」「内定を出しても、給与の条件で他社に決まってしまう」。中小企業の採用では、知名度の低さに加えて、給与水準が大きな壁になることがあります。

ただ、大手と同じ金額を出せなくても、打てる手はあります。自社の給与が相場と比べてどの位置にあるかを正しくつかみ、手当や福利厚生、働き方、成長の機会まで含めた「総合的な条件」で勝負すれば、選ばれる理由をつくることはできます。本記事では、給与水準の診断から、限られた予算での見直し方、給与以外の魅力の伝え方までを順に紹介します。

自社の給与水準を診断する

ここでは、自社の給与が採用市場でどの位置にあるのかを、客観的に確かめる方法を紹介します。「なんとなく低い気がする」という感覚のままでは、どこを直せばよいのか決められません。公的な統計と求人情報を使って現状をつかむことが、見直しの出発点になります。

業界相場との差を調べる

相場を知るには、公的な統計と実際の求人情報の両方を見るのが確実です。統計からは職種や地域ごとの平均的な水準が、求人情報からは今まさに採用で競っている会社の条件がわかります。

統計は、政府統計の総合窓口(e-Stat)で公開されている厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」が使えます。自社と同じ職種・地域・企業規模の所定内給与額を確認しましょう。

あわせて、複数の求人サイトで同じ職種・同じ地域の募集条件を集め、自社の条件と並べてみます。集める求人が多いほど、相場の幅が見えやすくなります。自社の基本給が相場より高いのか低いのか、どのくらい差があるのかを一覧にしておくと、次の打ち手を考えやすくなります。

手当や福利厚生も含めて比べる

求職者が比べているのは、基本給だけではありません。賞与、各種手当、退職金制度、福利厚生まで含めた「総報酬」で比べると、自社の本当の競争力が見えてきます。

比べるときは、「基本給×12か月+賞与+手当+福利厚生」のように、年間の総額に換算するとわかりやすくなります。会社が負担している社会保険料も含めて計算しておくと、一人を雇うのにかかる費用の全体像もつかめます。

通勤手当や住宅手当、退職金制度などは、求人票では目立たなくても、求職者にとっては大切な判断材料です。基本給で差があっても、こうした条件で補えている場合もあります。表計算ソフトで総報酬の比較表を作り、定期的に見直すとよいでしょう。

求職者が給与以外に見ること

求職者は、給与だけで会社を選んでいるわけではありません。働き方の柔軟さ、職場の人間関係や雰囲気、仕事を通じて成長できるかどうかも、転職先を選ぶうえで大きな判断材料になっています。

リモートワークやフレックス制度の有無、有給休暇の取りやすさなどは、実際の利用状況を具体的に示すことで伝わりやすくなります。

中小企業ならではの強みとして、経営陣との距離の近さや、早いうちから幅広い仕事を任される機会があります。こうした点を具体的なエピソードとともに示すことで、給与面での不利を補うことができます。

限られた予算で給与を見直す

ここでは、人件費に大きな余裕がない中小企業が、給与の条件を見直すときの考え方を紹介します。大切なのは、新しく採用する人の条件だけでなく、今いる社員とのバランスも保つことです。昇給の仕組み、福利厚生、成果に応じた報酬を組み合わせて、限られた原資を効果的に使いましょう。

今いる社員と新人の昇給を両立

採用のために新人の給与だけを上げると、今いる社員との間に不公平感が生まれやすくなります。新人と既存社員の両方が納得できる昇給の仕組みをつくることが大切です。

そのためには、評価の基準をはっきりさせ、上司の感覚だけで昇給が決まる状態をなくしていきます。身につけたスキルや仕事への貢献など、何をすれば給与が上がるのかを示し、既存社員にも同じ道筋を用意しましょう。

制度を変えるときは、全社員に向けて説明の場を設け、新しい基準の考え方を伝えます。決め方の透明性を確保することで、社内の公平感を保ちながら採用力を高められます。

福利厚生で実質の手取りを増やす

給与の額面を大きく上げられなくても、福利厚生を工夫することで、社員が実際に受け取る価値を高めることができます。

たとえば、健康診断や予防接種の費用補助、食事や住まいに関する支援、資格取得の補助などは、社員の生活に直接役立ちます。中には税制上の扱いが有利になるものもあるため、導入するときは社会保険労務士や税理士に確認しながら進めると安心です。

福利厚生は、今いる社員の定着だけでなく、求職者が会社を選ぶときの判断材料にもなります。自社の社員が本当に必要としているものから優先して整えていきましょう。

成果に連動する報酬を取り入れる

固定の人件費を一気に増やすのが難しい場合は、成果に連動する報酬を組み合わせる方法もあります。基本給に加えて、業績や目標の達成度に応じた賞与やインセンティブを設けることで、意欲の高い人材に応えることができます。

制度を設計するときは、評価の指標と支給の基準を明確にし、誰が見てもわかる形にしておくことが大切です。

新しく入る人だけでなく既存社員にも同じ制度を適用し、社内の公平性を保ちましょう。まずは対象の職種や評価指標を絞って、小さく試してみるのがおすすめです。

給与以外の魅力で選ばれる

ここでは、給与の額だけで大手と競うのが難しい中小企業が、自社ならではの魅力を伝えて選ばれるための方法を紹介します。成長の機会、柔軟な働き方、社員の紹介やSNSでの発信を組み合わせることで、知名度の低さを補いながら、自社に合う人材と出会える可能性が広がります。

成長機会とキャリアを示す

仕事を通じて成長できるかどうかは、転職を考える人にとって大きな関心事です。「この会社なら成長できそうだ」と感じてもらえるよう、キャリアの道筋を具体的に示しましょう。

中小企業の強みは、早いうちから責任のある仕事を任されること、複数の部門を経験できること、経営陣と直接話せることなどです。資格取得の補助や外部研修への参加機会があれば、あわせて伝えます。

面接では、実際に昇進した社員の例や、入社後のキャリアの流れを図にして見せると、求職者が自分の将来を思い描きやすくなります。まずは、自社にどんな成長機会があるのかを棚卸ししてみましょう。

柔軟な働き方を強みにする

働き方の柔軟さは、中小企業が大手と差をつけやすいポイントです。在宅勤務やフレックスタイム制度は、仕事と私生活を両立したい人にとって大きな魅力になります。

中小企業は意思決定が早いため、社員一人ひとりの事情に合わせた働き方を取り入れやすいという強みがあります。時差出勤や出社日数の調整、副業の許可などを、業務に合わせて組み合わせてみましょう。

制度をつくったら、実際に使われている様子を求人票や採用ページで具体的に紹介することが大切です。制度があることだけでなく、使いやすいことが伝わると、求職者の安心につながります。

社員紹介とSNSで知ってもらう

社員の紹介による採用(リファラル採用)は、求人広告に比べて費用を抑えやすく、社風に合う人と出会いやすい方法です。社員が自分の言葉で会社を紹介するため、入社後のギャップも小さくなりやすくなります。

紹介を増やすには、紹介してくれた社員へのお礼の仕組みを整え、募集中の職種や求める人物像を社内でこまめに共有することが大切です。

あわせて、SNSで会社の日常や社員の声を発信すると、知名度が低くても会社の雰囲気を知ってもらうきっかけになります。無理のない頻度で続けられる形から始めてみましょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。給与水準で大手と同じ条件を出せなくても、自社の現状を正しくつかみ、給与以外の魅力も含めて伝えることで、選ばれる会社に近づくことはできます。ここで、本記事のポイントを振り返っておきましょう。

重要なポイント

  • 公的な統計と求人情報を組み合わせて、自社の給与水準が相場のどこにあるかをつかむ
  • 基本給だけでなく、賞与・手当・福利厚生を含めた総報酬で比べる
  • 新人と既存社員の両方が納得できる昇給の仕組みを、評価基準とあわせて整える
  • 成長の機会や柔軟な働き方など、中小企業ならではの魅力を具体的に伝える
  • 社員の紹介やSNSでの発信で、知名度の低さを補う

まずは、自社と同じ職種・地域の求人をいくつか集めて、条件を並べてみるところから始めてみてください。現状が見えれば、どこから手をつけるべきかが自然と見えてきます。

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